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親子という「信頼の縦糸」。ひきこもりは人を傷つけないし、自分を傷つけない。

2019年5月28日に川崎市で起きた無差別殺傷事件が起きました。被害に遭われた方、ご家族や関係者の皆様に心からお悔やみを申し上げるとともに、哀悼の意を表します。

無差別に、しかも弱者を狙いその尊い命を奪い去ったことはいかなる理由・原因があったとしても決して許されるものではなく、一人の父親として強い憤りを感じます。

一方で、マスコミの報道で「ひきこもり」と「今回の殺傷事件」とを紐づけ、「ひきこもり ≒ 犯罪者予備軍」という図式を結果的に流布する形になっていることに強い違和感と、危惧を感じております。

 

私の所属する一般社団法人SCSカウンセリング研究所はひきこもり支援21年。その間に他者を巻き込む形の他害行為は「0」件です。正確に申し上げれば、居場所(デイケア)での小競り合いや、衝動性を帯びた家庭内暴力はございますが(暴力の限界設定を行うため)命に関わる、もしくは重症レベルの家族間での他害事案はございません。

 

また、SCSの前身団体時代(SCSの池田と桝田は代表ではない)は毎年必ず数件の自殺案件がございましたが、SCSを立ち上げ「親をメインとした支援」に切り替えてからの21年の中では自殺案件は1件もございません。正確には、「事故なのか自殺なのか今以て分からないケース」が一つだけあり、親御さんはその後もカウンセリングを続けていらっしゃいます。

 

この21年で明らかな自殺案件がないというのは、いかに驚異的なことか。親が子に向ける無条件肯定と信頼が生む「親子の縦糸」が、どれだけの力を持つかを証明している様に思います。

 

そして、ひきこもり青年らの他害傾向を否定する一つの材料として、私の研究である「ひきこもりビリーフ(ひきこもり青年に特有な信念)」をご覧いただければと思います。

  1. 就学就労について
    「完璧な仕事をしないといけない」「不完全な自分では何もできない」
  2. 親子関係について
    「親の期待には応えるべきだ」「親に迷惑をかけるべきではない」
  3. (現在の)自身の生活について
    「意味のない一日を送ってはならない」「同年代と同じような生活をするべきだ」
  4. 対人関係 について
    「きちんとしたコミュニケーションをとれる人間でなくてはならない」「同年代と同じレベルの人間関係を持っていなくてはならない」「人に嫌われてはならない」
  5. 他者評価について
     「他者からの評価に値する自分でいなくてはいけない」「良い評価を受けないとやっていけない」
  6. 自己決定・選択について
    「失敗しない選択をしなくてはならない」「何事に対しても決断するには時間が必要だ」
  7. 所属・肩書について
    「自分はどこかに所属していなくてはならない」「なんらかの肩書は大切だ」
  8. 協調性について
    「人からの指示や意見を受け入れなくてはならない」「争いはさけるべきだ」

 

この信念体系は、
「一般人(社会人・学生)」「ひきこもり親和群(“ひきこもること”について肯定的な立場をとる者)」「ひきこもりの青年」
の順番で、強く有していることが明らかになっております。

このことからも、ひきこもりの青年らは「無責任というよりは強い責任感の持ち主」であり、「他罰というよりは自罰的」であり、「学生生活や社会生活で生きるエネルギーを枯渇させてひきこもっている」ことがお分かりになられるかと思います。

 

心理(職)の世界で「孤独が人を狂わせる」という言葉があります。

 

私は「ひきこもりの青年が」社会参加より、就労訓練より、赤の他人に支援を託されるより、実の親との「信頼関係を育み直すこと」が一番確実に孤独を解消させ、一番安全な回復方法であると確信しております。

 

そのようにして育まれた「親から授けられた信頼感」は、人や社会と繋がっていく力になっていくのです。

 

最後に、特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会が出した今回の川崎殺傷事件に関する声明文(リンク有り)の後半に以下のようにあります。

『今回の事件は「ひきこもり状態だから」起きたのではない。社会の中で属する場もなく、理解者もなく、追い詰められ、社会から孤立した結果、引き起こされた事件だったのではないかと推察する。また、同じような事件が繰り返されないためにも、今後、社会全体でなぜこのような事件が起きたのかを考える必要がある。メディアは、ひきこもる人、その家族の不安、偏見を助長するような報道は控えていただくようにお願いしたい(特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会「川崎市殺傷事件についての声明文」)

私もこの声明文を支持いたします。

 

そして、私が伝えたいのは、親子という「信頼の縦糸」が通っているひきこもる青年たちは、重大な自傷他害行為は行わないという事実を最後にお伝えさせていただきます。

親子の縦糸の中には「親が大切にしている倫理観(心理学的には超自我)」もしっかりと編み込まれているのですから

 

個人の浅学な見解とはなりますが、最後までお読み頂きありがとうございました。

 

桝田智彦(ますだ ともひこ)

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